初心者ですが、空想妄想その他もろもろを働かせて必死に書いていますので、よろしかったら見てやってください。
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Chapter.43『Fear and uneasiness』
――――――――死戦 1時間20分前・・・・
舞台、日瀬駄菓子店 店前。
「待ってよ!お兄ちゃんだけで行くつもりなの?!相手がどんな奴なのか知らないけれど、一人よりは二人のほうが確実でしょ?!私も行く!」
私は、たった一人でその先に行こうとする背中に言葉を投げかけた。彼は、その言葉に気づき、僅かに振り返った。
「・・・・夏樹。お前は残れ。」
「どうしてよ!私だって、足手まといにならない自信はあるもん!」
無論。その言葉には偽りなどはなかった。少しでも彼の役に立つことが出来るように訓練を重ねてきたこの力を、今こそ発揮するべきなのだ。だが、彼には私の思いが通じることはなかった。
「・・・そういう意味じゃない。お前の実力は俺が十分分かっている。だからこそ、だ。お前は残って・・・あいつの守ってやってくれ。」
「・・・・そんな・・・」
「大丈夫。お前なら一人でもいけるさ。まぁ、万が一のために応援も呼んでおくから、な。・・・お前一人に任せてしまうのは申し訳ないが、頼む・・・。」
彼は、申し訳なさそうな顔で軽く頭を下げた。
(違う・・・。そんなことじゃない。私が一人で苦労すらからとか、あの人を守りたくないとか、そんなことじゃない。)
私の頭を軽くポンポンと叩き、不器用な笑顔を浮かべながら、彼は立ち去って行った。その後ろ姿に軽く、本音を告げた。
「・・・ただ、怖いの・・・私の見えないところで失ってしまいそうで・・・」
彼は私なら大丈夫だと、言ってくれた。私を信頼してくれた。
だけど、私はとても不安だった。だって、見たことがなかったから・・・。彼が戦っている姿を。彼が戦えることを。 怖かった・・・。彼が無理をしているのではないか、と思って。彼もまた、私の友人のように私の知らないところで失ってしまうのではないかと、ただ怖かったんだ。
彼のように『信じている』と声をかけたかったのに。私にはそれができなかった。
そして、今更ながらに知ったのだ・・・。私は、『お兄ちゃん』と呼ぶこの人のことをほとんど知らないってことを。
*
――――――――死戦 15分前・・・・
舞台、日瀬駄菓子店 店前。
「えーと・・・お茶だけど、いる?」
「え?」
すごく申し訳なさそうに、彼は私の横にお盆を置いた。そこには、居間にあった饅頭数個と、入れたての湯気が立ち上る茶碗があった。
「えーっと・・・。やっぱいらないかな・・・それどころじゃないもんな・・・。その・・・ごめんな・・今の僕にはこんなことしかできないからさ・・・」
本当に申し訳なさそうに、彼は呟く。
「・・・・ごめん。ありがと」
私は軽く会釈をしてから、お茶をすすった。
苦味のある温かさが口に広がり、それと同時に不思議と自分の中の負のイメージが一掃されていく感じがあった。
(・・・情けない。私が弱気になってどうするんだ。頼られる側が守る側を不安にさせてしまうなんて・・・・。)
パン!パン!と頬を強く叩く。
「ど、どした?!」
突然の張り手に彼は驚き、後ずさりをする。まぁ、無理もないか。私もいきなり過ぎたか。
「だ、だいじょぶ!だいじょぶ!うん!絶対に守って見せるから任せて!」
私は明るく振舞う。そして、彼に向けてVサインを見せた。足元はまだ若干震えはある。それが私なりの精一杯の明るさだった。でも、弱気な自分を彼に知られ、彼を不安にさせるなんてことはできない。
「は・・はは。えーっと・・・それじゃ、よろしくお願いします・・・」
彼は、ちょっと気まずそうに会釈をした。
「・・・うん。絶対に守るから・・・・」
私は、無意識のうちにそんな言葉を呟いていた。
今考えると、その言葉は果たして彼にだけ向けたものだったか・・・。
*
ぐちゃ・・・・びちゃ・・・・・
突如、奇妙な音が聞こえ出した。最初はほんとに小さな音で。でも、それは次第に大きく空間に響き渡っていく。
音のほうへ軽く振り返る。まだ先の方だけど、確かにそれはこちらを目指して歩を進めていた。なるほど。予想通りというか、なんというか。推定で100体ほどだろうか。どうやればこれだけの死者を集めることができるのだろう。
私は、他人事のように関心してしまった。 「なんだよ・・・これ・・・」
だが、隣では、彼の震える声がする。無理はないか。あれほどの数を見て、叫び声1つ上げない私のほうがおかしいのだ。
それに覚悟はもう、決めていた。
「部屋の中にいて。それで、できる限り、奥の部屋に行っててね。」
「う・・・わかった・・・その・・・死なないでくれ・・・・」
震える体を押さえつけながら、彼は、辛そうに店の中へと入っていった。店の奥へと行く彼の背には恐怖と同時に言いようのない悔しさがにじみ出ているようだった。
私は彼が部屋の奥へ向かうのを確認すると、ゆっくりと店のドアを閉め、鍵をかけた。この程度の防壁でやつらの攻撃を凌げるとは思っていないけど、ないよりはマシだろう。
ぞろぞろと迫り来る死人の山。
ここに辿り着くのには、もう5分とかかるまい。まだ残っていたお茶を一気に飲み干し、私は胸のペンダントを外し、右手に握った。
・・・・大切な人を失ってしまうかもしれない恐怖。・・・・大事な人を守れないかもしれない恐怖。・・・・・自分が死んでしまうかもしれない恐怖。それら全てが混ざりあい、巨大な波として、私にどっと襲い掛かってくる。
だけど。 今は、妙な感覚だ。あんなに押し潰されそうに感じていたのに、今ならいける気がしてならないのだ。
右手に赤い閃光が走り、我が愛鎌が姿を現す。
このときより、私の戦いは始まりを迎えた。
後に死戦という名を付けられる、誰も知らない殺戮戦争がゆっくりと幕を上げた瞬間だった。
<続く>
2008/04/08 (火) / 15:16
Chapter.44『Cuff button』
『トンネルを抜けるとそこは、辺り一面雪景色だった。』
なんて、フレーズがあったと思うが。実にそれと似通った現状が俺を出迎えていた。
「なんていうか・・・とりあえず、ビンゴだったが。あんま歓迎ムードじゃ、ねぇんだな・・・。」
蹴り破ったガラス戸の先に待ち構えていたモノは、実に不気味な光景だった。
足元に広がる畳は、地平線の先までず〜〜〜っと畳で、一体全体ここは何畳間なんだ!、と問いたくなるほどに広々とした空間が広がっていた。イグサの匂いは嫌いではないのだが、これはあまりに多すぎだろう。 後ろを振り返ると、そこには先ほど蹴り破ったガラス戸の姿は霧のように消えており、前方同様に地平線の先まで畳、畳、畳・・・・。四方八方畳の地平線を拝めるというとんでもない状況に陥っていた。どこぞの大奥でもこんな光景に立たされたことはあるまい。
更に上空に頭を向けると更なる仰天図が待っていた。
「・・・・・・うげ・・・」
どんな怖ろしい物にもグロテスクな物にも人離れした耐性を備えていたつもりだったが、その光景はさすがに吐き気を催すほどだ。何よりも、この場に夏樹を連れてこないで本当によかったと、心から思った。
そこにあったものは、ぶら下がった人だった。天井のほうに足を縛られて・・・簡単に言えばバンジージャンプのときみたいにされているらしく、恨めしそうな顔をこちらに向けている。それが1体、2体なら問題はない。いや、問題はありまくるけど、耐えられると言う意味だ。だが、その哀れな死人が隙間なく、犇めき合いながらぶら下がりあっていたならば話は全く別問題だ。その不気味な頭畑は、畳同様に、先のほうまでびっしりと犇めき合っていた。
「・・・あああ・・・。最悪だ。こんなに気分が悪くなるのなら・・・来なきゃよかったかもな・・・。」
できる限り足もとを見て、上を見ないように試みるが、ダラーーっと垂れてくるなんかの液体がびちゃ、びちゃと畳に落ちるたびにぞっとする。何が垂れてきているのかは、考えたくない。
そんなこんなで現状に怯えていると、ようやく向こうから挨拶にやってきたようだ。
「ようやく来たか・・・。全く、客人を待たせるとはな・・・」
迫り来る死人の数は、およそ10体。予想していたよりも随分でお手柔らかな待遇。おそらく、俺が手ぶらだったからその程度の待遇なのだろう。それが、微妙に気に入らない。
「すくねぇな・・・。まぁ、いいか。肩慣らしにはちょうどいい。」
そう言いながら、コートのカフスボタンを1つ手に取り、銀色に輝くひし形のカフスボタンを摘む。
「お前等には、この程度で十分だ。・・・・まぁ・・・」
ピン!と、上空目掛けて軽く指ではじく。
飛ばされたカフスボタンは空中でクルクルと回転し、そのまま重力に従って、地上の畳目掛けて降下し・・・。
・・・・・ザン!!
ボタンの着地音とは思えないような響きと衝撃を畳に与えた。
俺の目の前にあるソレには、先ほどまでのカフスボタンの名残はどこにもない。いや、唯一あるとすれば、その銀色くらいか?
いろいろな角度に屈折し、歪な形を見せるソレは、折れた枝のようでもあるが、そこには巨大な葉のような刃が畳を貫いていた。剣と呼ぶにはあまりに不恰好だが、凶器と呼ぶには申し分ない姿を死人の前に現していた。
突然現れた銀色の凶器に死人を動きを止める。
何がどうなってカフスボタンがこんな武器になったのか、彼らに理解することはできまい。 まぁ、こんなやつらにわざわざ教えることもないか・・・。
「・・・・・さぁ、始めようか。こんな安っぽいボタン1つで消えるのは、不満かもしれないが・・・悪く思うなよ?」
俺は、銀色の刃を手にした。
久々に手にしたその刃の重みに、身が引き締まる。
何年ぶりだろう。この高揚感は。ルイスからいろいろな依頼を受けてきたが、こんなに身体が震えるのは、本当に久しぶりだ。
心臓がバクバクと波打つ。早く・・・早く殺したいと、殺し合いをしたいと激しく魂を揺さ振る。
(あぁ・・・。こんな姿は・・・さすがに見せられないな・・・・あいつには・・・)
俺は、今にも零れ落ちそうな笑いを押し留めるのが精一杯なほど、今、この瞬間を待ちわびていたのだ。
誰にも見せたくない顔をしながら、俺は目の前の死体と対峙した。
<続く>
2008/04/11 (金) / 11:03
Chapter.45『Death vs Death』
彼らの目に、ソレはどのように映ったか・・・
人々に『死神』と称されながらも、人間の駆逐を進めてきた無数の死人達よ。彼の者達に無論、感情などない。思考などない。それ故、泣き叫び懇願する人に易々とその爪を突きたて、引き裂いてこれたのだろう。
だが、今となっては逆にそれが仇となる。
わずかながらでも感情があれば・・・今、目の前に立ちはだかる存在に『恐怖』することができたろうに。わずかながらでも思考があれば・・・目前の『恐怖』からの『逃走』を思案することができたろうに。
*
ぐちゃ・・・ぴちゃ・・・
不愉快な音を立てる。その歩みは、止まらない。ただ、一直線に目的とする場所を目指して・・・。
「くす。・・・・さぁ。始めましょうか。」
夏樹は、場の雰囲気に馴染まない不自然な笑みを浮かべながら、自ら敵陣へと歩み寄る。その冷笑は、対峙する者に向けての最終通告。不吉に浮かべたその冷笑こそが、相手に対しての「生と死の境界線」。
大鎌を振るう。目の前に迫り来る死人の群れに恐れる様子はない。先ほどまで怯えていた者とは思えぬほどに軽快な足取りで接近していく。
そう、忘れてはいけない。彼女もまた、多くの者に『死神』と呼ばれ、恐れられる存在・・・・。18という若さからは想像もできないような戦いを乗り越え、『死神』と呼ばれる所以をいくつも残してきた魔女なのだ。
今宵、漆黒の舞踏会で始まるは、死神と死神による、生死を賭けた円舞会。
*
無数の屍の死神と、赤い鎌を携えた死神。
それは、戦いというよりも、一方的な暴力。1体の死神による一騎当千劇と言えよう。
「はぁぁぁあ!!」
掛け声と共に繰り出される赤い連撃。それは風を連想させるほどの素早さと鋭さを持つ。その刃を前に、立ちはだかる死人達はなす術なく、切り刻まれていく。彼らは、彼女を攻撃を止めることができなかった。いや、それ以前に彼女に触れることすら叶わなかったのだ。
強いとか、弱いとか。そんな次元を超えた戦いがそこでは繰り広げられていた。
ザン!ザン!ザン!
おびただしい数の『動かぬ』死体を踏みつけながらも彼女は、迫り来る者達に一片の容赦もなく、刻み続ける。
打開策がわからぬまま、死人は彼女に突進し、次の瞬間には、哀れな肉片へと帰していく。
圧倒的な展開。誰もがそう感じる状況。だが、そんな状況下でありながらも、ただ一人・・・夏樹はその展開に不安の色を見せていた。
*
数体程度ならば、本来は余裕で片付けられる。100体であったとしても、底が判ればそれに対応した戦い方も可能だ。
そう、彼女の抱いている不安はそこにあった。迫り来る死人の群れは減っていく様子が見えなかった。いや、それ以前に増えている様にも見える。
「・・・・・はぁ・・はぁ・・・・はぁ・・・」
息が上がっていくのが判る。体が次第に重くなるのも判る。
この事態を一番恐れていたのだ。『限界点のわからない戦い』がスタミナのない彼女にとって、何よりも怖かった。
<続く>
2008/04/12 (土) / 11:15
Chapter.46『Looker-on』
「・・・駄目だな。がんばっているようだが、このままじゃいずれ奴らに潰されるのが関の山だ。」
アパートの屋上から夏樹の戦いぶりを傍観していた男は小さく呟く。
足元には、赤い瞳を3つ輝かせた黒い犬が座っており、退屈そうにあくびを繰り返す。その様子を見て、男は軽くため息をつく。
「そうだな・・・。確かに眺めているだけでは退屈だな・・・。だけど・・・」
胸ポケットから取り出した煙草をくわえ、火をつける。そして、ため息まじりの煙を吐き出す。
「・・・あの人の手助けをするのはごめんだな・・・・。どうも、あの『カミヤ』という男は気に入らない・・・。」
視界には、必死に鎌を振るい、敵を刻んでいく女の姿が見える。だが、皮肉なことに彼女の見えないところで、死人が次々に数を増やしていた。下手をすれば、戦闘開始当初よりも多いのではなかろうか。それほどまでに死人の増援はすさまじかった。そんな中でも彼女は、がんばっているようだが、おそらくあの調子ならば、あと10分くらいが限界だろう。
「・・・・悪く思うなよ。やっぱり、『番犬』と、『魔術師』は相容れない仲なんだよ・・。お互い干渉しないほうが身のためなんだ・・・。」
視線の先で、今まさに絶望的状況に置かれている彼女に向かい、そういい残す。無論、聞こえているわけない。
「いくぞ・・・ケルベロス・・。俺らには関係のないことだ・・・」
ポンと犬の頭を叩き、黒いローブに身を包んだ男は、きびすを返し、屋上の出口へと向かい歩き出す。
が、最後にもう一度だけ振り返り、
死人の波に飲み込まれようとしている少女の姿を見て、
ギリ・・・
と、辛そうに歯軋りをした。
「・・・・あぁ・・・腹が減ったな・・・・」
「くぅん・・・」
足元では黒い犬が切なそうに返事した。
<続く>
---------------------------------------------------------------------
というわけで。
話も大詰めとなり、残りの少なくなってきましたので、そろそろエンジンを全開にして、書き出していこうと思い、ドンドン公開していくことにしました。
といいますか・・。この作品を始めてから既に半年もの月日が経っていたんですね・・・。『HELLS-GATE』がもう、既に過去の作品となってしまっています・・・。ほんとにちょっと1,2ヶ月の間に仕上げるつもりの作品だったのに・・・。
まぁ、Nameless-WizardもHELLS-GATEとは、全く関係のない話というわけではないのですがね。追々その辺についても書いていこうと思います。
2008/04/12 (土) / 11:33
Chapter.47『Silver Berserkr』
『結界領域』 それは、全ての魔術師、妖術師などの異端者が我が身を守るため、もしくは自分自身を強化するために作り上げる空想の空間。これが完成することが一人前と認められるための最低限のハードルであり、またこの力が自信にとって最大級の武器になる。それ故、多くの異端者は、同属の戦いに慎重になる。それもそうだろう。ホームとアウェーのどちらかがいいかなんて聞くまでもない。アウェーでの戦い、即ち、敵の領域での戦いというのは、それほどまでにハンディキャップが大きく、危険な行為なのだ。
だから、神耶のように、敵陣地へ、無防備のまま、領域内へ侵入する行為というのは、前代未聞であり、ありえない行動だったのだ。
自信があるのか・・・それとも馬鹿なのか・・・。
銀色の刃を片手に不敵な笑みを浮かべる男の考えを、館の主は、知る由もなかった。
*
日瀬駄菓子店で夏樹が死闘を繰り広げられている中、ここでも人知れずに死闘が始まろうとしていた。
神耶の動きは、一見隙だらけのように揺れ動いており、特に構えもないまま、手に持つ刃も下ろしたまま、死人の待つ場所へ歩いていった。
彼の持つ銀色の歪な凶器は、見る角度によっては、それは銀色の翼を広げているようにも見え、また悪魔の腕のようにも見えた。いや、そもそも・・その銀色の刃に決まった形などはなかった。時間経過と共にくねりながら刃は形状を変え、武器からかけ離れた姿へと移行していく。時には数メートルサイズの槍のように伸びたり、巨大な鉄板のように薄く大きくなったり・・・。
それは、武器として、全てにおいて常識を逸していたのだ。それは・・・・・・武器というよりも生物に近い。
それがなんであるかなんて、その場にいる誰にも理解などはできない。1つだけ言えることがあるとれば、もう、そこには、カフスボタンだった頃の名残など一切なかった。
*
「うらぁぁぁ!」
神耶は叫びと共に、剣と呼ぶにはあまりに歪なソレを振り回し、向かってくる死人を狩る。その四肢を枯れた枝のように裁断し、その頭部を熟れた果実のように叩き潰す。銀色の刃は、それらの行為を行う度に形状をハンマーのようになったり、巨大なノコギリのようになったりと、様々な形の凶器へと変えていく。どうも、持ち主の意思に沿って姿を変えているというわけではないようで、使い手の神耶自信も使いにくそうにそれを操っていた。
無論、死人もただ、黙ってやられるのを待っているわけではない。その爪を尖らせ、牙をむき出し、隙あらば、この暴走男の喉元に切りかかろうとしていた。だが、それも空しく、彼らの想像を絶した彼の攻撃パターンに無残にも切り裂かれていく。
神耶の手に握られた凶器の隙だらけの動きは、逆に予測不可能な攻撃パターンによって全てカバーされていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ふぅ」
気がつけば。
その場には、あれほどいた死人の姿はなく、足元に解体された人のパーツが転がる状況のみが残されていた。
戦法とか、戦略とかはまるでない。言うなれば、バーサーカーのごとく、迫り来る敵を片っ端から切り裂いていった結末だった。
日瀬駄菓子店店主・神耶。ほとんどの者がその本当の素性を知らない魔術師は、久しぶりと称したこの戦いを、『圧倒』という二文字がそっくりそのまま当てはまるような展開で幕を下ろしたのだった。
・・・・・・いや。正確には、これからが始まりだったか。
頬についた汗を拭いながら、神耶は武器を下ろす。そして・・・・一方を睨みつけた。
「・・・・ようやくお出ましかい?大将さんよ。」
そこには、いつからいたのか知らないが、1つの人影があった。黒のローブによって顔が隠れているため、その表情は確認できない。だが、この状況での登場。つまりはアレに間違いはないわけで・・・。
「・・・お会いできて光栄だね。『黒の傀儡師』。さすがに60年も教会の目から逃れてきただけある。その古ぼけたローブを纏った姿にも威厳みたいのが見れるな」
神耶は、皮肉を込めた挨拶を投げかけた。その手に握る銀色の刃の柄を強く握り締めながら。
その手は、僅かに震えていた。
そんな彼の姿を嘗め回すように見た後・・・・永遠と続く畳の上に降り立った黒いローブの男は、微かに微笑んだ。
その笑みは、嬉しさの笑みではなく・・・・殺意・憎悪の篭もったモノであった。
<続く>
2008/04/15 (火) / 00:24
Chapter.48『Death flag』
一人の男が、予言した。本人の意思とは関係なく。本人の気持ちとは関係なく。
それでも、男は予言してしまっていた。
『死』を。
*
二人は、畳の広がる大地の上で対峙した。黒いコートを羽織る魔術師と、黒ローブを羽織る傀儡師。互いの間には違う雰囲気の風が吹いているようだった。
「・・・お会いできて光栄だね。黒の傀儡師。さすがに60年も教会の目から逃れてきただけある。その古ぼけたローブを纏った姿にも威厳みたいのが見れるな」
「・・・くくくく・・・・。そうか。君が近頃我々の邪魔をしている魔術師か・・・。まさか、そちらから出向いてくれるとは思いもしなかったが。」
まるで、古びたラジカセで録音したかのような掠れた声が場に響く。声色は、想像よりも若々しく、とても60年以上生きてきた者の声とは思えない・・・。
「・・・・『思えなかった』、の間違いじゃねぇのか?あんたにとっては、来訪者なんて久しぶりだろ?」
「くっくっくっ・・・如何にも。60年振りのことだよ・・・ボウヤ。しかし、こんなところに来ていいのか?今頃、私が差し向けたマリオネット達が、君の保護していた人間を殺しているところだぞ?」
「あー。たぶん大丈夫だと思うぞ?一応それなりの戦力をあの場所に置いてきたつもりだし。」
「ほぅ・・・。自信があるようだね・・・。でも、いいのかね?確かにソレは、他愛もない死体だけだが、『数』は尋常ではないぞ?君の大切な仲間が彼らと同じ『死人』になっていないという補償まではないと思うがね?」
数・・・。傀儡師の言葉は、それが10とか100とかという桁じゃないことを示したいるのだろう。無論、そんなことわかっていた。一馬が何番目の不壊部位だか知らないが、それを見逃すことはないことを。そして、そのために・・それこそありったけの戦力を・・・この場を手薄にしてでも、あそこに死人を送ることを。 神耶はそれを知っていながら。今、何処が一番危険で、死に近い場所かと知っていて・・・彼女をあの場に残し、彼はここに来ていた。故に、既に迷いなどここに持ち合わせてはいない。
彼の頭の中で描いた、最低最悪な現状になっていたとしても、今の彼に迷いなどという人間味の溢れた感情など持ち合わせてはいなかったのだ。
「ああ・・・安心しな。もし、夏樹が死人になって、やつらと同じになっていたら・・・。」
彼の瞳は冷徹に目の前の傀儡師を睨みつけた。
「俺があいつを殺すだけだ。問題ないさ」
この好機を逃すわけにはいかないのだ。ようやく、60年もの間、行方の知れない存在だった者を目の前に捕らえているのだ。他の命など、この際どうでもよかったのかもしれない。それが、彼の本心でなかったとしても、優先順位を誤ることはない。
「くくく・・・なるほどな・・・さすがは魔術師だ・・・・冷酷な血は健在というわけだな・・・」
「冷酷?何年も前に魂の消えた死人を、人形として酷使してきたあんたと比べれば、可愛いものだと思うがな」
「・・・・・・くっくっくっ。なるほど・・・確かにソレは言えるかもな・・・・くくく。」
何がおかしいのか、傀儡師は腹を抱えて笑い出した。それは、狂っているとしかいえない光景だった。
「気味の悪い人間だな・・・。まぁ、その人生も今日で終いだがな。悪いが傀儡師、お前さんの命を止めさせてもらう」
そう言い放つと、銀色の刃を傀儡師に向ける。だが、傀儡師はそれをつまらなそうに見ると、ニタニタと笑みをこぼした。
「ほほぅ・・・。お前が、私をか。くくくく・・・・・しかし、なんだな。最近の若い魔術師というのは、威勢はいいが、何処か馬鹿らしい。」
「なんだと?」
傀儡師は神耶の刃を見つめた。見れば見るほど、異型で不気味に映るそれを、嬉しそうに眺めていた。それは、まるで自分の同属を見つけたようなそんな感覚。
「確かに面白い能力だ・・。一体、どんなマジックをつかったのか興味深い。・・・それを聞けないのはとても悲しいことだが仕方あるまい・・・・。ボウヤ・・・サヨナラだ」
傀儡師が右腕を軽く挙げる。それとほぼ同時にザシュという鈍い音が響き渡った。
*
「・・・サヨナラだ・・・・」
傀儡師が笑いを堪えるような仕草を見せながら、右手をすっと上げた。
その行為の意味に気づくことは出来なかった。ただ、俺は傀儡師の言葉の意図を掴もうと、ただそれだけに注目していた。
だから・・・・・・・背後に気を回すことを忘れていた。
ザシュ・・・・・
奇妙な感覚と、奇妙な音が同時に体に伝わる。背中から胸にかけて1つの衝撃が駆け抜けていき、奇妙な異物感が体に残る。
「・・・・あ゛?」
自然と視線は音の発生した方へ向く。
眼下に飛び込んできたモノは、俺の胸から伸びた腕だった。俺には3つ目の腕なんてものは持ち合わせていないし、こんな形の胸をしているわけでもない。それは明らかに俺の知らない腕であって・・・。
その手には、これまた見慣れないものが握られていた。赤く脈打つそれは、心臓と呼ぶものではなかろうか?一体、誰のモノなのか知らないけれど・・・。この状況だとなんとなくわかってしまう。
体中の血の気が引いていくのを感じる。むかつくくらいの息苦しさが体を締め付ける。それなのに、頭は嫌なくらいスッキリとしていた。
そして、俺の胸から生えた腕は、俺の目の前で
ぐしゃ・・
握りつぶした。それは、熟れたトマトのように・・・。はじけ飛んだ・・・。
「・・・あが・・あああ・・・あ」
言葉が出ない・・。喋りたいのに言葉がうまく出せない・・・。
「くくく・・・。習わなかったのかい?自分以外の存在が作り上げた結界に入るときは、それなりに防護の術を施しておかなければ、相手にすらされずに殺されると。」
傀儡師は、俺に背を向けた。その背は、俺に全てが終わったことを物語っていた。
(・・・まてよ・・・待てよ待てよ・・・!冗談じゃないぞ)
俺は、前のめりに倒れこんだ。背後を見ると、先ほど俺が切り裂いた死人の手足などが浮遊する様子が見えた。まるで、天から糸で操られているように、フワフワと浮遊するソレは、三流手品のようにしか見えず、無償に腹が立つのと同時に、こんな仕掛けに気づけなかった自分に嫌気が差す。
必死に畳に爪を立てる。胸部に走る激痛よりも、喉が締め付けられ、呼吸することができないことのほうが苦しい。目の前がフラッシュを浴びたかのように点滅し、赤く染まる。脳が死へのカウントダウンのように脈打っているのがわかる。
ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・・
(・・・・こんな・・・・こんなところで死ねるか・・・よ・・!)
歯を食いしばる。畳に這い蹲り、四肢に力を入れる。必死に倒れた上半身を起こそうと、全神経に命令を出す。
(動け・・よ・・・・・この俺がこんなところで・・・・)
少しずつだが、確実に意識が消えていくのがわかる。痛覚なんて、感じることもなくなっていた。今は苦しいというより・・眠い。
(頼・・・む・・・消えるな・・・・止まるな・・・・)
視界に広がる畳の上に立つ1つの影。
最後に腕を伸ばした。届かないと判っていながらも、薄れ行く意識の中で俺はできる限り右手を伸ばし・・・
(あ・・・・いつらが・・・待ってる・・・んだ・・・・だか・・ら・・・)
手足が氷のように冷たくなっていき・・・・・そして、動きを止めた。
空っぽになった胸部からは、止め処なく体液が漏れていく音が耳に響く・・・体は俺が死んだとコールしているように・・・・。
・・・・・・まだ脳は、心臓のように激しく鼓動しているというのに・・・。
<続く>
2008/04/15 (火) / 00:57
Chapter.49『Immortal flame』
私が初めてあの鎌を手にしたのは、12歳の冬だった。先生と呼ぶ男性から渡された鎌を最初に見たとき、その透き通るような紅い色が宝石のようで、目が離せなかったのを覚えている。
「・・・これは・・鎌・・ですか?」
「ああ。私のいた世界に存在した、十三神具と言われる魔剣集団の中の1つだ。こいつはその中でもトップクラスの破壊力を秘めている大物だよ。君の欲しがっている『力』というのには十分すぎる代物だ。」
「じゅうさん・・・しんぐ・・・?」
聞いたことのない名前だった。それに先生の話し方からすると、まるで自分が地球の人じゃないみたいな感じにも聞こえてくる・・・。
「まぁ・・・平たく言うと、『世界でとても強力な武器ベスト13』に入る武器というやつだ。わかるか?」
「うん、わかりやすいです。・・・・でも、先生・・・そんなすごいのを私が使ってもいいんですか?」
話を聞けば聞くほど不安が押し寄せてくる。確かに私は力が欲しかった。退魔の一族『日瀬家』に生まれながらも、霊視の力が欠片もなく、退魔師として活動できない自分が不甲斐なく感じていたからというのもあるが、何よりも何かを守れる力を、自分に自信の持てる力を欲しかっただけなのだ。 だから、この話は、正直私の考えからあまりに飛躍したところにあった。
だが、先生にかまわずに話を続ける。 「ああ。そもそもこの手の剣は誰にも使えるってわけじゃないからね。おそらく君以外に扱えることのできる人はいないだろう。相性というものを特に重視するからね・・・この剣類は。」
「・・・へぇ・・・・。」
「ただ、忘れはいけないことがある。」
「?」
「この鎌は、とても強力で、おそらく最強の類と言ってもいいだろう。こいつは、君が望んでいた通りの力を君に与えることだろう。だけど、力というのは無償で与えられるものではない。必ず、何かの代償と引き換えに与えられるものなんだ」
「代償って・・・い、痛いことですか?」
「もちろん、そういうのもあるし、痛みを伴うものばかりが代償とは限らないよ。だけど、それらがどんな形であれ、我々に不利益になるものであることは確かだ。だから、いいかい夏樹?」
「はい」
「力に溺れてはいけない。まず、自分に頼り、そして次に人を頼りなさい。それでも、駄目なとき、その鎌の力を使いなさい」
「鎌の力・・・?」
「ああ、そうだ。そうそう・・・名前を言っていなかったな。この鎌の名前はな・・・・・」
*
死闘を始めてから、どれほどの時間が流れただろうか。人払いの術おかげで近辺住民に一切気づかれることなく、孤独な戦いを続けた夏樹にも限界は刻一刻と近づいていた。
手足には傷を負い始め、動きも鈍くなっている。。戦闘開始時は明らかに優勢だった。迫り来る死体達を軽くあしらい、一瞬にて切り裂いていた。その戦力差はあまりに大きく、数ばかりの多いそれらは単純な『的』でしかなかった。しかし、全てを切り裂き、死人が人間の形で無くなったところから事態は急変した。
それは、三流の手品のようであった。頂点から真っ二つに切り裂いた体、浮遊する手足、生首だけが感情のない表情でこちらを眺める。無論、浮遊したままで。それらは動くことがないはずなのに、まるで見えない糸で釣られているようにフワフワと宙を舞う。
皮肉なことに、切断したために、敵の数を増やしてしまったのだ。
「・・・・はぁ・・・はぁ・・・・まったく・・・気味が悪い・・・。あんたたち・・・アメーバの親類?」
目の前の想像を絶する光景に、夏樹は軽く舌打ちをした。
動くはずのない状態で浮遊するそれらは意思を持った矢のような閃光で彼女の体を切り裂いていっ た。大鎌を振るい、応戦するものの、的が小さくなったこともなり、むなしく空を切る。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・」
その顔には、絶望感さえ、浮かんでいる。夏樹は、ぼんやりとした眼差しであたりを見渡す。刻まされながらも浮遊する死体、その奥にはまだ完全な体を維持している死体が迫っていた。それが一掃彼女の絶望感に拍車をかけた。 だが、その中に見覚えのある人影を見つけた。それはほんと偶然だった。ただ、彼女の胸に光る銀のペンダントが街灯の明かりに反射したのを見逃さなかったからか。
それは、確か・・・・彼女が友人にプレゼントしたモノだった。今は亡き・・・そして、彼女にこの戦いをするきっかけを作った・・・あの友人に。
見た目はすっかり変貌していて、当時の面影はほとんど残されてはいなかった。頭髪は抜け落ち、頬は朽ち始めていた。服さえも原形をとどめていなかった。
その姿を見ただけで、夏樹の目の色は変わった。諦めから、怒りへと。自分の友人を殺し、更にその遺体を弄んだ輩に対して。
「へぇ・・・・・おもしろい嗜好じゃない・・・・。それじゃこっちも斬るだけじゃ品がないわね。それ相応の芸当を見せてあげる。」
無理はあった。体は疲労を抱えて重く沈みこんでいた。それでも、ひとつの怒りが、この絶望の中に唯一の希望の光をもたらしていた。
彼女の怒りに合わせてか、その手に握られた赤銅色の鎌の色がさらに赤みを増していく。白い蒸気を発生させ、あたりに霧のように立ち込める。やがて、鎌は発光を始め、全体を包み込むように紅のオーラが現われた。
それは、赤の炎だった。周りの空気を燃やし、熱があたり一面を包み込む。既に大鎌の刃は、姿が見えなくなり、その刀身は炎に包み込まれてしまっている。
だが・・・それが、彼女の持つ大鎌の本来の姿。刃を紅に染めたソレには、巨大な炎が包んでいる。それに近づくもの全てを燃やし尽くすように。
「教えてあげる。この子の本当の名前をね・・・・。そして、本当の姿を。」
その炎は生きていた。
振り上げる大鎌に纏わり付いていた炎は死体を切断すると同時にその切り口に映りこみ、炎上させた。大地にこぼれた火の粉すら、アスファルトの上を駆け抜け、死体に燃え広がっていく。それはまさに地獄絵図だった。鎌を振るうたびに飛び散る火の粉が新しい炎となり、死体を次々に炎上させていく。火から逃げるようにそれらは必死になって炎上部分を叩いたり、払ったりするが。炎は消えることはなく、対象が灰となるまで燃え続けていた。
「無駄よ。この炎ね。私が死ぬか、私が命じるまで燃え続けるんだから。」
それゆえ、その大鎌についた名前がある。『不死紅蓮(ふしぐれん)』。不死の炎を纏う死神の鎌・・・。触れた者に逃げる術はなく、生きながらに我が身が灰になるのを見守るのみ。これが、最凶の魔剣と呼ばれる所以か。
死体は結局何もできず、声にならない悲鳴を上げながら、灰となっていく。それは、鎌で斬り進んでいた頃とは話にならないくらいの破壊力だった。死人の数はドンドン減っていくのが目に見えて明らかだった。
無論、その力に代償はあった。それは『疲弊』。それも生半可なものではない。体中からの熱やエネルギーを奪っていると言えばわかりやすいか。とにかく、長期の戦闘の先で待っていることは、完全なる停止。即ち、『死』である。既にその傾向はでていた。周囲は鎌の熱によって真夏のような熱波が包み込んでいた。にも関わらず、彼女の顔は青ざめ、吐く息は白い。体を震わせ、時折、腕を摩る。その様子は、極寒の世界にいるかのように。
それでも、夏樹は賭けていた。いや、もう彼女の手持ちのカードにはこれしか残されていなかったというほうが正しい。
炎を構える夏樹には、これが・・・・最後のともし火だった。
夏樹は、それを分かっていながらも、その鎌の炎を絶やさず、敵に向かって行った。
だが、そのため・・・・背後の駄菓子店の入り口が・・・・外からでなければ開くことのない鍵が、開いていることに気づけなかった・・・。
<続く>
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『十三神具』という言葉。これは、HELLS-GATEとの関連その1です。
まぁ、簡単に説明しますと、文内でも述べたとおり、13本ある魔剣のことです。
ちなみにHELLS-GATEの主人公さんが使っている黒い剣、あれも魔剣の1つです。
2008/04/16 (水) / 09:40
Chapter.50『Desperate situation』
外の音は聞こえない。
家の一番奥に行けと言われるがまま、真っ直ぐに奥へと向かうとソコにあったのは、トイレだった。さすがに便所に隠れているのもどうかと思い、今は妥協してトイレのすぐ近くにあった和室に閉じこもっている。あまり使われていない部屋なのか、埃臭く、天井には蜘蛛の巣さえ見えた。今時珍しい裸電球1つが天井からぶら下がった場所で、僕は外の様子を気にしながらもその場から一歩も動くことができずにただ黙って座っていた。
手には、唯一の武器である『普天』を固く握っている。さっきから額や手のひらに嫌な汗がにじみ出ている。
怖かった。
自分が襲われることが、ではない。
自分のせいで誰かが死ぬことが怖かった。
自分なんかのために誰かが傷つくのが怖かった。
そんなことを考えるたびに過去が蘇ってくる。
それだけじゃない。自分の不思議な目のことも気になるし、自分の不壊部位というのも気になっていた。もしかしたら、彼らが僕に何も言わないのは、不壊部位が目だからだろうか?もしかしたら、そのせいであんな不思議なことが僕の目だけに起きていたのか?ただの空想でしかないけれど、可能性は十分ある。 ・・・だから、どうすればいいのか。なんてことはわからないけれど・・・・
そのとき、音の消えていた部屋に、すぅっと、静かに目の前のふすまが開かれることが響いた。
*
「こんなところにいたのか・・・・」
僕の目の前にいたのは、一人の人間・・・のようなもの。その目に生気なんてないし、肌蹴た服からは、人の物とは思えないような肌が見えていた。
そう、例えるならば・・・マネキン人形そのもの。ただ、その目だけが人間のように動き回っている。
「なんだ・・・なんだよ・・・おまえ・・・」
「私か?私は・・・儡(らい)。傀儡師の片割れさ」
カクカクと、口を腹話術の人形のように動かしながら流暢に人形は喋った。
「く・・くぐつし・・・・?!」
(つまり・・・やつらと同類というわけか?いや、こいつの気配から察するに・・・その親玉か?)
一体、どうやってここに来たのか?玄関前は夏樹がいて、戦っているはずなのに・・・。
嫌な予感ばかりが頭をかけめぐる。
人形は、嬉しそうな目を浮かべながら、ゆっくりと僕のもとへ近づいていく。まるで、罠にはまった獲物にジワジワと恐怖感を与えながら、笑みを浮かべて近づくハンターのように。
「・・・いやだ・・・くんなよ・・・・」
震える手には、『普天』が握られていた。そして・・・・
「う・・・・うわああああああああ!」
大きく振りかぶり、敵へと突進した。
もう、無我夢中だった。でも僕にはこうするしかなかった。目の前の恐怖を受け入れられず、ただ、目の前の現状から逃げたくて、剣をふるい、目の前の人型を縦に切断した。
・・・・つもりだった。
カキィィィン・・・・
澄んだ音が響き、何かが宙を回転する。やがて、それは弧を描きながら、畳に突き刺さった。
「あ・・・え?」
手元には、刃先が半分になった『普天』の姿。そして、目前には、無傷のまま立ちはだかる人形の姿があった。それだけのことなのに、現状を理解するのにしばらく時間がかかった。
(・・・・おれた?何が?どうして?)
頭は真っ白に染まっていく。何かを考え、何か行動しなければいけない状況に立たされているというのに、僕の全ては動きを忘れたかのように止まっていた。
「おわりか?」
「・・・え?」
気づいたときには、耳元であの声が聞こえたときだった。それは、ゲームオーバーの合図。
「終わりなんだな。つまらない・・・人間の言葉でいうところの『余興』にすらならなかったな。」
ゆっくりと近づく。その手をぬぅっと彼の前に伸ばしながら。
「くるな・・・くるなぁ!!」
我に帰った僕は、必死に叫ぶ。きっと、とてつもなく情けない顔をしていたことだろう・・・。
無論。その程度の反抗で止まるわけはない。
「いただくよ・・・お前さんの心臓を。」
「・・・・しんぞ・・う?」
(あれ・・・?目じゃなくて・・・心臓?)
ガシッ!
人形の右手は僕の首を掴むと、そのまま上へひきあげる。締め付ける冷たい腕が、首に食い込んでいくような感覚。全てが痺れてくる・・・そんな嫌な感じが支配してくる。手足がうまく動かない。血の流れがスローになっていくように感じる・・・・。
1秒がすごく長く感じた。まばたきが重く感じた。こんなに、心拍の音ってこんなに大きかったのか。
人形は呟く。
「ついに・・・手に入る・・・。これで、あの方の夢も叶うぞ」
変化の見られない顔も何処か高揚としているようにも見え、不気味だった。
ゆっくりと伸びる手が僕の左胸に近づく。これから心臓を抜かれる。麻酔とかなく、生きたまま、全ての血管を引きちぎりながら、摘出される。それは、きっと、とても怖くて、とても痛いことなのだろう。目を背けるとか、気絶とかしてしまうくらいに怖ろしいことなのだろう。 それなのに、目を凝視したまま、その腕の動きを・・・人形の姿を見ていた。
迫ってきた死の恐怖に怯えながら、僕はソレを視ていたのだ。
視える筈のない・・・いや、少なくともさっきまで視えていなかったはずのソレを、僕は確かに視ていた。
<続く>
2008/04/26 (土) / 02:33
Chapter.51『Thread』
僕が初めて人を殺したのは、高校生のときだった。
だけど。実感なんてなかった。
それは今でもそうだ。
*
父方の祖父は、有名な退魔師だった。祖父だけじゃない。代々普天家は退魔師としては、東北の名家であり、全国でも名の知れた家系だったのだ。だが、父は若くして視力を失い、退魔師の世界から身を引いてしまっていた。
そのため、霊の見える目を持っていた僕と妹は、幼い頃から猛特訓させられることになった。それはあまりに酷く、ある日妹は耐え切れずに血を吐いた。
体は痣だらけで何度骨を折ったかもわからない。当時小学2年生の体は確実に死へと近づいていることが明らかだった。
それでも、祖父は心配するどころか、弱りきった妹を立たせ、『特訓を続けろ』とか、『普天家の恥』だとか叫び、何度も何度も叩いた。彼にとって、僕や妹は先代の築き上げてきた歴史を残すための道具に過ぎなかったのだ。
だから僕は、泣きながら叫んだ。『麻奈(まな)のことはほっといてやってください!代わりに僕が特訓するから!』今思えば、よくあんなことがあの祖父に言えたものだ。それは、ライオンに生肉持って挑発するのと同じくらいに危険なことだっただろう。 それからと言うもの、祖父は妹には見向きもしなくなり、ただ僕にだけ厳しい特訓をさせた。
そして、それが報われることは・・・・・・・・・なかった。
『道具』でしかなかったのだ、僕は。
体を壊し、全盛期のように振舞えない祖父の代わりに大物は僕が倒し、祖父は小物ばかりを片付けた。それでも、一緒に行動するのには訳があった。それは、祖父のメンツ。まだ、現役でどんな化物にも立ち向かっていると世間に知らしめるため・・・。
そのための『道具』だった。どんな化物を退治しても、世間が褒めて称えるのはいつも祖父で、僕には見向きもしなかった。ただ、父や母、そして妹だけが僕を労わってくれた。仕事はとてもきつく、嫌だった。それこそ、死んでしまえば楽になれるんじゃないかと思えるほどに。でも、僕が死んでしまうと、祖父はきっと妹に目がいくだろう。そうなれば、妹が僕と同じ苦しみを味わうのだろう。
だから、続けた。あの日のあの瞬間まで。
*
見えたのは、白い糸だった。
天からゆらりと伸びた細い糸。それが、祖父の体から伸びていた。暗い場所にありながらも、白く輝いて見えたのは、それ自体が光っていたからか。それも、1本や2本どころじゃない。体のありとあらゆる場所から伸びていた。
例えるならば・・・・
・・・・・あやつり人形の糸のように。
でも、そのときの僕には、それが霊としか思えなかった。霊が祖父の体に巻きついているのだと思ったのだ。
だから、躊躇することなく、僕はそれを切り裂いた。
ぷつん・・・という音すらなく、それは切断され、それと同時に
ゴドン・・・・
という、音と共に、祖父は糸の切れたマリオネットのように、その場に崩れ落ちた。叫び声もなく、倒れ、ピクリも動かなくなったそれを見て、僕はしばし停止していた。
*
『もう、お年だったから』
誰もが、そう呟き、残された家族に会釈をして帰って行った。
誰も僕を疑わなかった。
祖父には刀傷はおろか、まともな傷は何1つなかったのも理由であるが、何より、見えない物を相手にしていたのだから、それにやられたんだろうと考えたのだろう。
だから、誰も真相を知らない。
だけど。何かが変わったのは確かだった。
誰にも言ったこともないし。これからもきっと誰にも言わない。
僕しか知らない真実。
『僕は、きっと・・・人を殺したことがある。』
*
そして、今も見えていた。
あのとき、祖父に見えた糸とは色が違うけれど、同じものが。
赤く細い糸。
嬉しそうな目をしながら僕の首を締め上げ、今まさに胸にその鋭く尖った爪を突き立てようとしている人形の背後に。
それで何が起こるかなんてわからない。でも、考えている時間もない。
手には、刃が半分になった『普天』があり、意識は今にも途絶えそうになっている。
指にもうまく力が入らない。
だから、チャンスは一度だけ。
僕は、ソレを凝視し、そして・・・・・・・・・。
<続く>
2008/04/26 (土) / 03:18
Chapter.52『Fire extinguishing』
・・・・・限界は近かった。
*
手元にある紅の鎌から発せられた炎は、確実に死人の数は減らしていく。火を纏いながら、灰となって空を舞っていく死人の体の破片は、サラサラと散って行く桜の花びらのようだった。
彼らの能力は、すさまじかった。切断されているにも関わらず、部位が大きければ、たとえ腕のみであろうと襲ってくる。おそらく、マリオネット(あやつり人形)と同じことなのだろう。四肢にそれぞれ糸をつけ、操るマリオネットは、腕と胴体を切断しても、腕が地に転がることはなく、腕のみの糸でぶら下がっているように。 たしかに凄い。だけど、この炎の前には全てが無意味だ。全てを燃やし尽くす炎。それも、対象物が完全に消滅するまで。だから、彼らが四肢をバラバラにして浮遊させるなんて芸当をする前に灰になってしまう。
彼らからしてみれば、私の能力は、天敵なのかもしれない。狩る者と狩られる者。鷲とウサギの関係が完全に成立した。
ただ、生憎と私は、完全な鷲じゃない。翼がちぎれ、いつ落ちてもおかしくない状況だったから。
私の手元で、威勢よく燃え盛る炎の鎌・・・。
だけど、私の魂の炎は、既にろうそくの火のように小さく揺れ動く程度だったのだ。
「はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・・」
もう、動けなかった。これ以上無理をすれば、全て壊れてしまうと体が警告しているのだ。今なら、まだ間に合う。自分だけでも助かる道はある、と。
「・・あ」
カクン・・・
と、膝が折れ、慌てて鎌を杖代わりに立ち上がろうとする。だけど、思い通りには動かなかった。でも、驚くことでもなかったのかもしれない。
わかっていたことだ。表の私は、早く立ち上がって死人を倒さなければと、約束を守らなければと意気込んでいる。だけど、違う。裏の私は・・・いや、本当の私は、どうでもいいと感じているんだ。自分さえ、無事ならば。『家族』さえ無事ならば。今、ここで逃げ出しても別にかまわないって。私はできる限りのことはした。でも、駄目だった。だから仕方ない。誰も私をせめたりしない。こんなに傷つき苦しんでいる私を誰も咎めたりはしない。
思いと同時に、体の機能は一斉に収縮していく。 (からだが・・・つめたい・・・)
手足は、氷水に浸しているかのように、針の刺激のような痛みと冷たさが感じた。
(あしが・・・おもい・・・・)
錨を足に結ばれたような感覚が襲う。
(めまいが・・・する・・・)
視界に入るもの全てが、眩しくて、目を開けていることも辛い。
(すごく・・・・ねむい・・・)
全てを忘れられるのならば・・・今の苦しみからも解放されるのならば、任務とか約束とか・・・他人のことなんか、自分のことと比べれば小さい物。無理になることはない。関わらなければいい。心配することはない。いつものように目を伏せればいいだけ。怖いものから、嫌なものから、面倒なものから、窮屈なものから・・・・大切なものから。それら全てを忘れて、生きればいいじゃない。
そう、あのときのように。
友達が、死人になって、生きている人を襲っていると判っていながら、黙って見過ごしていたあのときのように。
誰も咎めない。誰も気付けない。私さえ、黙っていれば何も問題ない。良いカッコすることはないんだ。そもそも、私には似合わない。
だから、忘れて。ずるしちゃえ。
昔から得意だったじゃない。仮病で小学校を早退するのが。そんなこと・・・簡単でしょ?
「ふふ・・・・・そんなこと・・・・」
私は、笑いながら、そんな言葉を無意識のうちに呟いていた。
視界の先には、数人にまで数を減らした死人。その中に、あの子の姿もあった。フラフラとした足取りで私に近づく友達の姿。私を殺すために近づいてくる。
今なら、まだ間に合う。痛覚に耐えながら立ち上がりさえすれば、その場から立ち去ることくらいできる体力はあるはずだ。
だから、私は笑ったのだ・・・・
「・・・・思える訳・・・・ないじゃない・・・!」
・・・愚かな私を!
*
(からだが・・・つめたい・・・)
でも、魂はまだ熱い。
(あしが・・・おもい・・・・)
でも、動く。
(めまいが・・・する・・・)
ならば、目を閉じて立ち上がれ。
(すごく・・・・ねむい・・・)
ならば、全てを終わらせてから寝れば良い。
あのとき、あの子を救えなかった。大切な人だったのに、私は救えず、辛いものから目を伏せた。そのことが酷く苦しくて、何度も何度も自分を責めた。もう、あんな気持ちを受けたくないと。だから、立って、あの子を救わなければいけない。あの子の肉体を壊すことがこの世に生きている私の唯一の謝罪方法なんだから。
そんな気持ち、誰も信じない。誰も気付かない。私がどんなに頑張っても、誰もそれを見てくれる証人なんていない。良いカッコしても、空しいだけ。そもそも、私には似合わない。
だけど、忘れて。がんばっちゃえ。
昔から得意だったじゃない。自分に嘘をつくのが。そんなこと・・・簡単でしょ?
「・・・・うああああああああ!」
歯を食いしばりながら、鎌を杖にして立ち上がる。
だけど、一息ついている余裕はない。腕を振り上げる死人の姿が前にあった。ターゲットはもちろん私。死人はもちろん・・・友達。
確かにやばい。だけど、私のほうが速い。
炎を纏った鎌が一瞬で死人の体を上半身と下半身に等分した。
「・・・・・ごめんね。救ってあげられなくて・・・。」
最後に、小さく謝罪した。その体の中には誰もいないって知っていたけれど、なんか言いたかったのだ。目の前にまで近づいていた友人の崩れた顔に、笑みが見えた気がした。
ぼぅ・・・
瞬時に着火し、彼女の全てを炎が包んでいく。その体が崩れて行き、小さくなっていく。
そんな様子を眺めながら、私は再度その場に倒れこんだ。
終わってしまった。
限界が来たのかもしれない。
冗談抜きで動かない。
あれだけ燃えていた鎌も元の姿に戻っていた。
(・・・嘘でしょ・・・?これからじゃない!)
目だけが唯一動き、必死になってあたりを見渡す。残っている死人はあと・・・7体。いや・・・まだ向こうからも来るかもしれない。それでも・・・今まで通りに戦えば、なんとかなる数にまで減らせているのだ。
さっきみたいに、無理をすれば立てるはずなんだ。
(・・・・それなのに。なんで、動かないのよ!)
近づいてくる死人達。ゆっくりと・・・ゆっくりと・・・。
アスファルトから振動で伝わってくる彼らの足音が酷く耳障りだ。
聴覚なんて機能、今はいらないから、右腕だけでも動いてくれ。
心で、必死に叫んだ。 (やだ・・・あきらめたくない・・・)
目と鼻の先。鼻には、死人の腐敗臭が伝わる距離にまで接近していた。
(・・・おわりたくない・・・・)
涙が自然とこぼれ出し、頬をびしょびしょにする。
なさけないけど。
今更ながら、死をびびっていたんだ。
目の前に来た死人がゆっくりと足を上げる。それも限界まで高く。
どうやら、私の頭部を踏み潰すつもりらしい。
私は、こんな死に方をしてしまう自分が悔しくて、なんにも出来ずに殺されることが悲しくて、死ぬ瞬間を見るのが怖くて、私はぎゅっと、目を閉じた。
しばらくの沈黙が流れ。
そして・・・・
ばしゃぁぁん!。
水溜りを長靴で思いっきり踏みつけたような音がし、私の視界は赤く染まった。
<続く>
2008/04/27 (日) / 15:37
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